日本において、故人を偲び、その魂を敬うための象徴的な存在として使われるものとして、伝統的に重要視されているものがある。その役割や意味は宗派ごとに微妙に異なっているが、どの宗派でも、亡くなった方への思いをかたちにして残す重要な対象物であることには変わりがない。多くの仏教宗派においてこれは故人の戒名を刻み、祭壇などに安置される。日本の仏教では葬式の際に必ず用意されることが一般的であり、そこへ故人の魂をとどめる依り代であるとされてきた。多くの場合、木製で作られることが多いが、その素材や装飾、形状には様々な種類が存在している。
たとえば黒塗りに金粉、豪華な彫刻が施されているもの、比較的シンプルな素木タイプなど、家ごとの宗派や地域の伝統、その家族の希望で形状や装飾の幅は広い。そして、その意味や存在意義も宗派ごとに大きく異なっている。日本の仏教のなかで特徴的な位置を占めている宗派の一つが、浄土真宗である。この宗派は、阿弥陀如来の救いを絶対とする信仰を中心に据えているのが大きな特徴だ。この浄土真宗では、他の宗派とは異なった位牌に対する考え方がある。
つまり、一般的に行われる葬式の流れの中で、位牌を使用しない伝統が受け継がれてきた。 その理由としては、阿弥陀仏の本願によって救われ、ともに仏となって浄土に生まれるとする教義に基づいている。つまり、故人も亡くなった瞬間に仏となるため、その魂を一時的に現世にとどめる依り代としての位牌を必要としないのである。実際、浄土真宗の家では位牌のかわりに「法名軸」と呼ばれる掛け軸を用いることが一般的で、この掛け軸に故人の法名や没年月日などが書かれることになる。掛け軸を仏壇に飾り、日々手を合わせることで故人を偲ぶというかたちである。
一方、浄土真宗以外の宗派では葬式の際に必ず位牌が用意されるケースが多い。葬式の儀礼において仮位牌（白木位牌）を用い、それを四十九日法要の際に本位牌にかえて仏壇に安置する流れが一般的である。本位牌への移行のタイミングや書かれる内容にも、それぞれ伝統が存在する。多くの場合、俗名・戒名・没年月日・享年などが金文字で丁寧に刻まれている。日本の伝統的な葬式に深く関わっているため、故人やご先祖への思いを目に見えるかたちで残したいという願いも込められている。
こうした対象物には、生前の人格や生き方、家族が抱いてきた想い、宗教観など、さまざまな意味や願いが集約されている。そのため、仏壇の中でもとくに丁寧に取り扱われている。日々のお参りや年中行事の際に、ご先祖や故人と向き合う時、家族の中心に据えられる存在となる。現代社会では、核家族化や住環境の変化により、仏壇を持たない家庭も少なくないが、依然として葬式や法事を迎える際、この伝統的な対象物の必要性について深く考える機会が多い。それぞれの家庭や宗派にあわせて工夫される場合も増えている。
たとえば簡略化されたものや、新たなデザイン、素材を取り入れた位牌も現れていることから、伝統と現代生活の狭間でさまざまな選択がなされている。伝統を大切にしながらも、現代の家族の在り方、新しい暮らし方に配慮した形式が求められている現状は、日本人にとって、ご先祖や故人への想いそのものが大きな価値を持ち続けていることの証ともいえる。葬式だけでなく、年忌法要や日々の祈りに欠かせない存在として、宗派を越えた家族の絆や歴史の象徴であり続けている。宗教的な形式の違いを知ることで、より一層、日本の死生観や家族観について幅広く学ぶことができるだろう。このように、葬式における象徴的な存在は仏教文化を通して日本の家庭に受け継がれてきた、誠実な想いを目に見えるかたちにかえたものである。
しかし、時代や住まいの変化に対応しつつも、ご先祖や故人への敬意、手をあわせる姿勢を守り続けようとする日本人の心、仏教の精神は今も色濃く息づいている。宗派ごとの相違を理解し、ご自身に合ったかたちで、大切な方への敬意を表現することが現代においても変わらぬ意義になると言える。日本における葬式では、故人を偲び、その魂を敬う対象として位牌が重要な役割を果たしてきた。位牌は多くの仏教宗派で用いられ、木製で戒名や没年月日などが刻まれており、仏壇に安置して日々の祈りや法要の中心となる。しかし、その意味や形状、祭祀の方法は宗派や地域の伝統、家族の思いによって大きく異なる。
特に浄土真宗では、阿弥陀仏への信仰を重視し、亡くなった者はすぐに仏となるという教義のため、位牌を用いず「法名軸」という掛け軸で故人を偲ぶという独自の風習が定着している。他宗派では仮位牌から本位牌へ移す伝統や、刻む内容にも慣習が見られる。近年では、家庭環境や家族形態の変化により伝統的な位牌や仏壇を持たない事例も増えているが、故人へ想いをかたちにしたいという気持ちは依然として根強い。現代では新しいデザインや素材の位牌も登場しており、伝統と現代的生活との調和が模索されている。宗派ごとの違いを理解しつつも、ご先祖や故人への敬意や祈りの気持ちを失わずに、各家庭にふさわしい方法でその想いを受け継いでいくことが、これからも大切にされていくといえる。